今回は、『産科混合病棟』について、私が体験した臨床のエピソードも交えながらお伝えしたいと思います。現状について統計にも触れつつ、未来に想いをはせながら…助産師を応援する企業『POTE』さんから『note』に記事を書く機会を頂いたので、とある病院の1人の助産師の考えですが、『産科混合病棟』から『混合病棟』に移行する未来を危惧し、『助産師としての専門性やアイデンティティは…?』という不安と向き合う、思考過程を表現できればと思います。
助産師コミュニティを運営する『POTE』の企業紹介はこちら
後輩の呟きから…産科混合病棟の現状
ある日の午後、後輩が寂しそうに呟いた。
最近、他科の入院多いですね…
この言葉から、後輩の『助産師としての専門性を発揮したい』や『妊産婦さんにケアを届けたい』という想いが痛いほど伝わってきた。
もどかしさも…やるせなさも…
この後輩の寂しそうな呟きは、分娩件数が月に100件以上の周産期センターに勤務している助産師の呟きだ。この病棟で働くスタッフは助産師のみだが、ベットが空いていれば他科の入院を受け入れている。
『助産師としての専門性を発揮したい』や『妊産婦さんにケアを届けたい』という想いがある中で、ベッドを少しでも稼働させたいという病院の経営的な視点が私の頭をよぎった。この経営に、私たちのボーナスの行方、生活がかかっているのも事実だからだ。極論、人の命がかかっている医療でビジネスの視点で考えるべきではないことかもしれないが、持続可能でなければ医療は続けられないという現実が。そしてもっと、現実をみるならば…
日本看護協会が2016年度に実施した調査では、分娩取り扱い施設の約8割が産科混合病棟だというのだ。そこに勤務する助産師が、産科以外の患者さんの対応をしている。この調査では、産科混合病棟化の傾向は今後も続くものと予測されている。
その背景には『少子高齢化』があると頭では理解していても、感情レベルでは『助産師なのに、助産師として働けないの?』といった心理的抵抗感が透けて見える。
そんな葛藤とは裏腹に、2022年上半期に生まれた子どもは38万4000人余りと、40万人を下回る数字に驚かずにはいられない。2021年の81万人というセンセーショナルな数字も飛び越えていくインパクトのある数字。いとも簡単に、データは私たちに現実を突きつける。
ポジティブな側面を3つ紹介
現状を知るという意味で『全国の産科混合病棟の割合』や『背景にある少子化の数字』を用いましたが、ここからは『混合病棟のポジティブな側面』も3点ほど紹介したいと思います。
1点目は、冒頭にもあった空床を有効活用できることです。今後、多死社会を迎える日本にとって病院も生き残りをかけた生存競争が予想されます。私たちの働く環境、ましてや妊産婦さんに医療的なケアを行う場を守る側面もあると考えています。助産師の雇用を守るという意味でも…(病院が助産ケアを行う全ての場ではないことは一度置いておいて)
2点目は、患者さん同士の交流です。今でも思い浮かぶ情景があります。
ある日、母児同室中の褥婦さんが、赤ちゃんがなかなか泣き止まなくてデイルームで抱っこしながら、一生懸命あやしていました。恐らく、同室の産後ママを気遣って、デイルームに出てきたのかもしれません。そこには、椅子に座っていた婦人科の70代の女性が家族と電話をしていました。赤ちゃんの泣き声がご迷惑じゃないかと、頭を下げながらあやす褥婦さん。婦人科の女性が電話を終えたあと、「謝らなくていいんだよ。未来を繋いでくれて、ありがとうね。」と優しい口調で声をかけ、ガラケーの鈴のキーホルダーで一緒に赤ちゃんをあやしていました。表情が和らいだ褥婦さんの顔と70代の女性の優しい眼差しが忘れられません。こんなホッコリする光景が時々生じるのが混合病棟の副産物なのかもと思うのです。
3点目は、周産期以外の分野の看護を学ぶ機会、実践経験を得たことです。婦人科疾患の患者さんからは、周手術看護、終末期看護などさまざまな看護を学ばせて頂きました。特に終末期の患者さんから、倫理について深く考える機会を得ました。晩産化、ハイリスク分娩が増える中、婦人科看護で学んできたことが活かせる機会を何度も経験してきた今だから言えますが…新人時代は目の前のことにいっぱいで、他科で学んだ看護が周産期に活かされる知識や経験になることをすぐには気づけませんでした。
婦人科の患者さん以外にも、近年は眼科や消化器内科、呼吸器内科と科の領域は広がりつつ、症例も増えつつあります。これをポジティブな側面で捉えるならば、看護力向上の機会であることは間違いありませんが、これも程度問題だと私は思います。他科の割合が産科の比率を上回ると、ポジティブな側面からモチベーションを維持したり、病院経営の大人の事情を飲み込むことすらも厳しくなってくると思うからです。
新人助産師さんの相談から
最近、新人助産師さんから頂くご相談の中にも、『入職後に産科業務に携われていない焦りや漠然とした不安の声』が聴こえてきます。病院や施設によると思うので、一概に言えませんが…いつ産科業務が出来るか見通しが分からなかったり、学生時代の友人から「もうお産介助しているよ!」って聞いた日には、不安や焦りの気持ちでいっぱいになるのは無理もないと思います。
もし、混合病棟にいて『助産師としての専門性やアイデンティティは…?』と自分の看護に迷いが生じたり、悩んでいるならば、立ち止まって考えてみてもいいと思います。ポジティブな視点で乗り越えるもよし、働く環境を変えるという行動を起こすもよし。新人さんには『自分らしく助産師を続ける選択をしてほしい』そんな想いでいます。
最後に…未来につなげたい想い
私自身は、混合病棟で他科の看護を学ぶことを選択し続けています。でも、ただ受け入れているだけではないことを最後にお伝えしたいと思います。『助産師としての専門性やアイデンティティは…?』という不安や葛藤はもちろんあります。
だけど、『いま目の前の妊産婦さんに、またここでお産したい』って思ってもらえるような助産ケアを心を込めて提供することを意識しています。小さなことかもしれませんが、『またここでお産したい』と思った女性が次子を妊娠・出産したり、友人などに紹介して分娩・産褥入院でベットを埋められたら…そんな未来を夢みています。
そして、この想いをチームで共有して、いまこの助産ケア1つ1つが産科を守る未来につながれば…そのケアの先に『またこの助産師にケアしてほしい』と願う妊産婦さんがいると信じて、今日も臨床現場で現実と向き合い、未来に想いを繋いでいこうと思います。
こんな拙い文章を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。